小規模事業者に効果的な「弱者戦略」と「ニッチ戦略」

当方のクライアントは、士業などの個人事業者や従業員数人の会社など小規模事業者です。大手起業のマーケティング手法は小規模事業に適しない内容が多いのが現実です。マーケティングのお話をさせていただく際にこの「弱者戦略」と「ニッチ戦略」という言葉を直接ださずともこの2つの戦略については触れることが多いのでご紹介させていただきます。同義で使われることの多い「ランチェスター戦略」についてもふれます。

number「弱者戦略」・「ニッチ戦略」とは

「弱者戦略」と「ニッチ戦略」は別の戦略のように使われていますが、「ニッチ戦略」は「弱者戦略」のうちのひとつという位置づけです。

「弱者戦略」とは

弱者戦略(Underdog Strategy)は、競争が激しい市場において、大手企業とは異なるアプローチを取ることで市場に参入し、成功を収める戦略です。

この戦略は、リソースが限られている小規模企業やスタートアップに特に適しています。例えば、大企業が注目していない市場の隙間を見つける、独自の顧客体験を提供する、特定の製品やサービスに特化するなどの方法があります。

弱者戦略の鍵は、大企業が提供できない独自の価値を生み出し、それを通じて顧客の心を掴むことにあります。

「ニッチ戦略」とは

ニッチ戦略(Niche Strategy)は、市場の特定のセグメントや小規模ながら特化した領域に焦点を当てる戦略です。

これは、広範な市場にアプローチする代わりに、特定のニーズを持つ小規模な顧客群にサービスを提供することを意味します。

ニッチ戦略を用いる企業は、その特定のニーズを満たすために特化された製品やサービスを提供し、そのセグメントにおいて高い専門性と認識を獲得します。その結果、競争が少ない市場で確固たる地位を築くことができます。

【参考】「ランチェスター戦略 第二の法則」とは

ランチェスターの第二法則(Lanchester's Second Law)は、フレデリック・ランチェスターが提唱した戦略理論の一部で、数的に劣る側が質的優位性を活かして勝利することを説明します。質的法則ともいう。

ビジネスにおいては、この法則は市場における小規模企業や新興企業が、特定の分野での専門知識や技術、革新、顧客サービスなどの質的な優位性を利用して、大企業との競争に挑む戦略として適用されます。この法則は、数の力に頼るのではなく、特定のニッチ市場や特化した製品・サービスによって市場で差別化し、競争上の優位を築くことの重要性を示唆しています。

number共通点と相違点

「弱者戦略」と「ニッチ戦略」の共通点と相違点については以下の通りです。

共通点

  • どちらの戦略も、大手企業が支配する市場の中で競争の激しさを避けるための方法です。
  • 特定の市場セグメントやニーズに集中することで、特化された価値提供を目指します。

相違点

  • 弱者戦略は、大企業が無視している市場の機会を利用するのに対し、ニッチ戦略は特定のセグメントに集中し、その分野で専門性を発揮します。
  • 弱者戦略は、一般的に市場の隙間を見つけることに焦点を当てるのに対し、ニッチ戦略は特定の顧客群のニーズに合わせた製品やサービスの開発に重点を置きます。

number「弱者戦略」と「ニッチ戦略」の使い分け

  • 弱者戦略を使う場合、企業は市場の傾向や競合の動向を分析し、大手が見落としている可能性のあるエリアに集中します。その上で、独自の価値提案やビジネスモデルを開発する必要があります。
  • ニッチ戦略では、企業は特定の顧客層の詳細な理解が必要です。顧客のニーズや行動を深く理解し、それに応じた製品やサービスを提供することが求められます。

number「弱者戦略」と「ニッチ戦略」の具体例

弱者戦略の例

【例1】新興のスマートフォンアプリ開発企業

状況 市場には大手の競合が多く、資源やブランドの知名度で劣っています。
戦略 一般的なスマートフォンユーザーではなく、特に視覚障害者をターゲットにしたアプリを開発。これにより、大企業が注目していない特定のニーズに焦点を当て、独自の価値を提供。
結果 視覚障害者のコミュニティにおいて高い評価を受け、特化した市場で成功を収める。

この例では、この企業は資源の限りがある中で、大企業が見過ごしている特定のニーズに焦点を当て、その分野で独自の価値を提供することで競争を生き抜くという典型的な弱者戦略を採用しています。

【例2】新興のファッションブランド

状況 ファッション業界は大手ブランドが市場を支配しており、新興ブランドは競争が困難。
戦略 エコフレンドリーな素材を使用し、持続可能なファッションを提唱。大手ブランドがまだ十分に注目していないエココンシャスな市場に焦点を当てる。
結果 環境意識が高い消費者から注目を集め、独自の市場ニッチを確立。

この例では、この企業は環境に対する配慮という特定の価値に焦点を当て、大企業がまだ十分に取り組んでいない分野で差別化を図ります。これは、大手が無視している市場の機会を利用する弱者戦略の一例です。

ニッチ戦略の例

【例1】小規模なオーガニック食品店

状況 食品市場は大手スーパーマーケットやオンラインストアが支配しており、全体的な市場では競争が激しい。
戦略 地元産のオーガニック食品に特化し、健康意識が高い消費者に焦点を当てる。持続可能な農業と地元の農家から直接仕入れることにより、品質と環境への配慮を強調。
結果 特定の顧客層からの強い支持を受け、ニッチ市場において確固たる地位を築く。

この例では、この企業は全体的な食品市場ではなく、オーガニック食品という特定のセグメントに焦点を当てることで、ニッチ戦略を効果的に実施しています。

【例2】専門的な趣味のためのオンラインストア

状況 オンライン小売市場は大規模なeコマースプラットフォームが支配しており、一般的な製品での競争は激しい。
戦略 特定の趣味(例えば鉄道模型や手芸)の愛好家向けに特化した製品を提供。専門知識と豊富な品揃えでその分野における専門店としての地位を確立。
結果 特定の顧客層からの強い支持を受け、ニッチ市場において確固たる地位を築く。

この例では、この企業は広範な市場ではなく特定の趣味の愛好家にサービスを提供することで、特化したニッチ市場に焦点を当てています。このように、特定の顧客層のニーズを深く掘り下げ、それに対応する製品やサービスを提供することがニッチ戦略の核心です。

number【参考】「ランチェスター戦略」とは

「ランチェスター戦略」とは

ランチェスター戦略とは、第一次世界大戦中の英国のエンジニア、フレデリック・ランチェスターによって提唱された軍事戦略に基づくビジネス戦略です。この戦略は、主に市場での競争を数学的に分析し、量的な優位性を持つ大企業と質的な優位性を持つ小企業の両方の視点から競争を理解することに焦点を当てています。

ランチェスター戦略の特徴

量的法則(ランチェスターの第一法則)

これは、敵対する二つの軍隊の戦力の比率と戦闘結果の関係を示すもので、ビジネスにおいては市場シェアが多い企業が有利であるという考え方です。要するに、市場における「大きい方が強い」という原則を表しています。

質的法則(ランチェスターの第二法則)

これは、小さな軍隊や企業が特定の戦略や技術を用いることで、数的に優れた相手に対抗できることを示します。この法則は、特定の地域や市場セグメントにおいて強力なポジショニングを取ることの重要性を強調します。

ランチェスター戦略と弱者戦略・ニッチ戦略の違い

ランチェスター戦略は、市場の競争を数学的に分析し、量的および質的な観点からの戦略を強調します。これは、市場シェアの重要性と特定の戦略を通じて劣勢を覆す方法に注目しています。

弱者戦略は、市場の隙間を見つけ、大手企業が提供しない独自の価値を創造することに焦点を当てています。これは、資源が限られた企業が競争を生き残るための戦略です。

ニッチ戦略は、市場の特定のセグメントに集中し、そのニーズに合わせて製品やサービスを特化させることに焦点を当てています。これは、特定の顧客層に対して高い専門性を発揮することで競争を避ける戦略です。

まとめ

ランチェスター戦略は、市場の力学を量的および質的な観点から分析し、その分析を基に戦略を立てることを重視します。一方で、弱者戦略とニッチ戦略は、市場の特定の機会やセグメントに焦点を当て、大手企業との直接的な競争を避けることに重点を置いています。これらの戦略はそれぞれ異なる視点から市場競争を考察し、特定の状況や企業のニーズに応じて選択されるべきです。