ダブルファネルで集客ルートを考える
当方ではクライアントの集客方法や集客導線を検討する際にダブルファネルを使用しています。今回はそのダブルファネルの説明をします。セールスファネルなら聞いたことがあるという人もおられるかもしれません。専門家や小規模事業者にとってはセールスファネルよりもインフルエンスファネルの方が重要になるケースが多いのが現実です。
ダブルファネルで図解にすることで新たな発見が起きるかもしれません。
はじめに:現代マーケティングにおけるダブルファネルの重要性
デジタル時代の進化に伴いマーケティングの手法も大きく変化しています。マス媒体に広告を出せば売れるという従来型の型のマーケティングだけでは、現在のビジネス環境で成功を収めることが難しくなってきました。特に広告に規制がかかる医療系や弁護士などの士業、あまり広告費がかけられない小規模事業者にとって費用対効果の大きい効率的な集客は常に課題となっています。
そこで検討していただきたいのが「ダブルファネル」という考え方です。これは従来の顧客獲得プロセスである「パーチェスファネル(セールスファネル)」と、口コミやインフルエンサーを活用した「インフルエンスファネル」を組み合わせた戦略です。この二つを効果的に連携させることで、士業や小規模事業者でも集客力を飛躍的に高めることが可能になります。
本記事では、ダブルファネルの基本概念から具体的な活用法まで、士業や専門職の方々、小規模事業者の方に向けて実践的な情報をお届けします。
パーチェスファネル(セールスファネル)
パーチェスファネル(セールスファネル)とは-顧客の階層化-
パーチェスファネル(セールスファネル)とは、見込み客が商品やサービスを認知してから、実際に購入や契約に至るまでの一連のプロセスを表現したモデルです。一般的に次のような段階に分かれています。
- 認知(Awareness):潜在顧客が自社のサービスや商品の存在を知る段階
- 興味(Interest):サービスや商品に興味を持ち、詳細を知りたいと思う段階
- 検討(Consideration):自身のニーズに合うかどうかを検討し始める段階
- 意思決定(Decision):購入や契約を決断する段階
- 行動(Action):実際に購入や契約という行動を起こす段階
このファネルの特徴は、上部(認知段階)が広く、下部(行動段階)に向かうにつれて狭くなっていくことです。つまり、認知した人のうち実際に購入や契約に至る人はごく一部であることを表しています。士業や医療機関などの専門サービスでは、この傾向がより顕著になります。
士業・専門家に効果的なパーチェスファネルの設計
士業や専門家のサービスは、一般的な商品と異なり「信頼性」と「専門性」が重要な要素となります。効果的なパーチェスファネルを設計するポイントとして、以下が挙げられます。
- 認知段階:ブログやSNSでの専門的情報発信、セミナー開催などで専門性をアピール
- 興味段階:無料相談会やウェビナー、事例紹介などで具体的な価値を示す
- 検討段階:個別相談、詳細な料金体系の説明、過去の実績紹介で不安を解消
- 意思決定段階:カスタマイズされた提案書の作成、期間限定割引などの後押し
- 行動段階:契約手続きの簡素化、安心感を与える初回サポートの充実
士業や医療機関では、「認知」から「行動」までの期間が長くなりがちです。そのため、各段階で適切なコンテンツを提供し、顧客の不安を取り除きながら信頼関係を構築していくことが重要です。
インフルエンスファネル
インフルエンスファネルとは
インフルエンスファネルとは、顧客がサービスや商品を購入・利用した後、その体験を通じて他者に影響を与える人(インフルエンサー)になっていくプロセスを表したモデルです。このファネルは次のような段階に分けられます。
- 使用(Use):商品やサービスを実際に利用する段階
- 満足(Satisfaction):利用した結果、満足感を得る段階
- ロイヤル化(Loyalty):継続的に利用し、ブランドに対する忠誠心が生まれる段階
- 推奨(Advocacy):周囲の人に自発的に推奨する段階
- 影響(Influence):他人の購買行動に実際に影響を与える段階
従来のマーケティングでは、パーチェスファネルの「行動(購入)」までが主な関心事でしたが、インフルエンスファネルでは購入後の顧客体験と、顧客が影響力を持つようになるプロセスに注目します。
近年インフルエンスファネルが重要になってきた理由
- SNSの普及:一般の顧客でも気軽に自分の体験を発信し、多くの人に影響を与えられるようになった
- 広告への不信感:従来型の広告よりも、実際の利用者からの口コミや評価を重視する傾向が強まっている
- 情報過多時代:膨大な情報の中から、信頼できる人からの推奨が選択の重要な基準になっている
- コミュニティの価値向上:オンラインコミュニティを通じて同じ関心を持つ人々のつながりが強化されている
- 費用対効果:広告費を削減しながらも、口コミによる自然な拡散を促進できる
特に士業や医療機関などの専門サービスは、「専門性」や「信頼性」が重要な選択基準となるため、実際の利用者からの推奨が非常に強い影響力を持ちます。
効果的なインフルエンサー活用法
自社のインフルエンサーを育てる
- 卓越したサービス体験の提供:顧客満足度を高め、自発的に推奨したくなるような価値を提供する
- 顧客との継続的なコミュニケーション:ニュースレターやフォローアップを通じて関係性を維持・強化する
- 顧客参加型のコンテンツ作成:顧客の声を事例集やブログに取り入れ、主役として扱う
- 推奨プログラムの構築:紹介制度や特典を設けて、積極的な推奨行動を促進する
- オンラインコミュニティの形成:顧客同士が交流できる場を提供し、帰属意識を高める
外部インフルエンサーとの協業方法
- 業界専門家とのコラボレーション:セミナーや対談を通じて相互の専門性を高める
- 地域インフルエンサーとのパートナーシップ:地域に根差した活動を行う人との関係構築
- コンテンツ制作者への専門知識提供:ブロガーやメディア運営者に専門的な情報を提供
- 専門家ネットワークの活用:同業種や関連業種の専門家との相互紹介体制の構築
- SNS上での対話参加:業界関連のハッシュタグやディスカッションに積極的に参加
士業や医療機関などの専門サービス提供者は、自身が「専門分野のインフルエンサー」になることも重要な戦略です。専門知識を分かりやすく発信することで、認知度と信頼性を高めることができます。
ダブルファネル
顧客の階層
パーチェスファネルとインフルエンスファネルの概要はわかってもらえたでしょう。この漏斗型と三角錐型の2つの三角形を合わせてダブルファネルといいますがここではもう少し顧客の状態を深掘りしていきます。
まず、世間であなたの商品・サービスを知っている方はこの逆ピラミッド(ファネル)に入ります。他方で、あなたの商品・サービスを聞いたことも見たこともない方はこの逆ピラミッドの外(上)にいます。
広告や身の回りの知人・友人が使っているなどの理由であなたの商品・サービスを知っている人はひとまず「潜在顧客」になります。
そのなかでも、まったく興味がない「無関心層」と多少なりとも興味がある「認知層」に分けられます。
「認知層」のうち少しは興味や関心がある状態の「リード」、さらに何らかのアクションを起こそうとしている人です。
以下は潜在顧客と顕在顧客の各階層の説明です。
潜在顧客 | 無関心層 (Uninterested) |
この段階の顧客は、あなたの製品やサービスについて知らないか、または知っていても興味を持っていない状態です。 彼らは市場でのあなたの潜在的な顧客ではありますが、現時点では製品やサービスに関連するニーズや関心がない、またはその存在を認識していない可能性があります。 このグループに対するマーケティングの主な目的は、ブランド認知度を高め、興味を引くことにあります。 |
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認知層 (Aware) |
「Aware」の段階の顧客は、あなたの製品やサービスの存在を認識していますが、まだ積極的な興味や購入意向を示していないかもしれません。 これらの顧客は、広告や口コミ、イベント参加などを通じて製品について知っていますが、購入に向けての具体的なアクションはまだ取っていない状態です。 ここでは、情報提供や教育的なコンテンツを通じて製品の価値を伝え、興味を喚起することが重要です。 | |
リード (Leads) |
リードは、製品やサービスに対してある程度の興味や関心を持ち、さらなるアクション(例:お問い合わせ、資料請求、無料トライアルの申し込みなど)を起こした潜在顧客です。 これらは、購入に向けて具体的な一歩を踏み出した顧客であり、さらなるフォローアップや営業活動のターゲットとなります。 リードは、購入に向けた具体的な機会を持つ顧客として重要視され、営業チームによる個別の接触やカスタマイズされたコミュニケーションが行われます。 | |
プロスペクト (Prospects) |
プロスペクトは、リードの中でも特に購入の可能性が高いと考えられる顧客です。これらの顧客は、製品やサービスへの関心が高く、購入に必要な条件(例えば、予算や購入意欲)を満たしていることが多いです。 プロスペクトは、営業チームによる個別のフォローアップやカスタマイズされたコミュニケーションの対象となります。この段階では、顧客のニーズに合った具体的な提案や解決策を提供することが重要です。 | |
顧客 | 新規顧客層 (New Customers) |
規顧客は、初めて製品やサービスを購入した顧客です。 彼らにとっては初めての購入体験となるため、ファーストインプレッションが非常に重要です。 新規顧客の経験を肯定的なものにすることで、リピート購入や長期的な関係の構築につながる可能性があります。 この段階では、顧客満足度を高めるためのフォローアップやサポートが重要です。 |
リピーター層 (Repeat Customers) | ロイヤル顧客は、ブランドや製品に深い忠誠心を持ち、長期にわたって継続的に購入する顧客です。 彼らはしばしばブランドの強力な支持者となり、口コミや推薦を通じて新規顧客の獲得に貢献します。 ロイヤル顧客に対しては、優れたカスタマーサービス、パーソナライズされた体験、特別な報酬や認識などを提供することで、彼らの忠誠心をさらに強化できます。 彼らはビジネスにとって非常に価値が高いため、ロイヤル顧客の維持と増加に努めることが重要です。 | |
ロイヤル顧客層 (Loyal Customers) |
リピート顧客は、複数回にわたって製品やサービスを購入する顧客です。 彼らは製品やブランドに対してある程度の満足度や信頼を持っており、継続的な購入を行っています。 リピート顧客は、新規顧客を獲得するよりもコストが低く、売上の安定性に大きく寄与します。 このカテゴリの顧客に対しては、ロイヤルティプログラムや特別オファーなどを通じて、長期的な関係を育むことが重要です。 |
具体例
あなたの通勤・通学ルートで新しく歯科クリニックがオープンしました。ここで、すでに通いなれた馴染みの歯科クリニックがあってまったく他の歯科クリニックに通う気のない人は「無関心層」です。 ただ単に、通勤・通学ルートに新しく歯科クリニックができたという認識をした人は「認知層」です。
そのうち、そもそも歯のトラブルがなくかかりつけの歯科クリニックがない人、現在の歯科クリニックに不満があって近所や通勤通学ルート上にあるというだけで機会があれば行ってみようと考えた人は「リード」です。
そして、そのうちすぐに歯科クリニックに行かなければいかない事態が発生した人が「プロスペクト」です。
ダブルファネルの重要性
ダブルファネルは、パーチェスファネルとインフルエンスファネルを効果的に連携させることで、持続的な集客と事業成長を実現する戦略です。その重要性は次の点にあります。
- 持続的な集客サイクルの確立:満足した顧客が新たな顧客を呼び込む好循環を生み出す
- 広告費の効率化:口コミやインフルエンサーによる自然な拡散により、広告コストを低減できる
- 信頼性の向上:実際の利用者からの推奨は、企業自身の主張よりも高い信頼性を持つ
- 長期的な関係構築:単なる一回の取引ではなく、継続的な関係を構築できる
- 差別化要因の創出:サービス自体が似通っていても、顧客体験と口コミで差別化が可能
特に士業や医療機関など、高度な専門性を持つサービスでは、信頼関係が重要なため、ダブルファネルの効果がより顕著に表れます。
パーチェスファネルとインフルエンスファネルの連携方法
両ファネルを効果的に連携させるためのポイントは次の通りです。
- サービス提供プロセスの見直し:顧客満足を最大化するためのサービス設計
- タッチポイントの増加:購入前後で顧客と接点を持つ機会を増やす
- 顧客フィードバックの積極的な活用:サービス改善に顧客の意見を反映
- 成功体験の共有促進:顧客の成功事例を積極的に発信する仕組み作り
- 推奨しやすい環境整備:SNSでのシェアボタンや紹介カードなど、推奨行動を容易にする工夫
重要なのは、パーチェスファネルの「行動(購入)」とインフルエンスファネルの「使用」をスムーズにつなぐ設計です。購入直後から満足度を高める取り組みを行うことで、顧客がインフルエンサーになる確率を高めることができます。
医療機関におけるダブルファネル活用事例
【歯科クリニック】
パーチェスファネル側の施策
- 歯の健康に関する専門的なブログを週2回更新
- 初診無料カウンセリングの実施
- 診療前の詳細な説明と模型を使ったビジュアル資料の提供
- 痛みの少ない治療法の採用と事前説明
インフルエンスファネル側の施策
- 治療後のフォローアップメールの送信
- 患者専用LINEグループでの健康情報の提供
- 治療成功事例(ビフォーアフター)のSNS共有(患者の許可を得て)
- 家族・友人紹介プログラム(紹介者・被紹介者双方に特典)
- 定期検診リマインドと予防歯科の促進
成果
この歯科クリニックでは、これらの施策を組み合わせることで、紹介による新規患者が増加し、広告費を削減することに成功しました。特に、治療に満足した患者からの口コミが、新規患者獲得の大きな原動力となっています。
士業事務所でのダブルファネル成功事例
【税理士事務所】
パーチェスファネル側の施策
- 税務・経営に関する専門Webセミナーの定期開催
- 無料の経営相談会の実施
- 税金対策ガイドブックのダウンロード提供
- 初回面談時の「経営課題発見シート」の活用
- 明確な料金体系と期待できる効果の提示
インフルエンスファネル側の施策
- 四半期ごとの経営状況レビューミーティングの実施
- クライアント専用のオンラインポータルでの情報共有
- 成功事例(節税額や経営改善結果)の数値化と共有
- クライアント交流会の定期開催
- 他の専門家(弁護士、社労士等)との連携紹介サービス
成果
この税理士事務所では、既存クライアントからの紹介による新規契約が増えるようになり、新規問い合わせから契約締結までの期間も平均3ヶ月から1.5ヶ月に短縮されました。特に、実際の節税実績や経営改善事例が口コミとして広がることで、信頼性が大幅に向上しました。
まとめ:自社のダブルファネル構築に向けて
ダブルファネルは、従来の一方通行型マーケティングを超えた、持続的な集客と事業成長を実現するための新しいフレームワークです。特に士業や医療機関などの専門サービスでは、信頼性と専門性が重視されるため、満足した顧客がインフルエンサーとなって新たな顧客を呼び込む循環が非常に効果的です。
自己診断チェックリスト
パーチェスファネル関連
- 各段階(認知→興味→検討→意思決定→行動)に合わせたコンテンツを用意している
- Webサイトやブログで専門知識を定期的に発信している
- 無料相談や体験サービスなど、敷居を下げる仕組みがある
- 顧客の不安や疑問に対応するFAQや事例集を提供している
- 契約までのステップが明確で分かりやすい
インフルエンスファネル関連
- サービス利用後のフォローアップ体制がある
- 顧客満足度を定期的に測定している
- 顧客の推奨・紹介を促進する仕組みがある
- SNSや口コミサイトでの評価を把握している
- 顧客の成功事例を積極的に発信している
5つ以下の項目にチェックがついた場合は、ダブルファネルの仕組みを構築する余地が大きいと言えます。
次のステップと実践ポイント
- 現状分析:自社のパーチェスファネルとインフルエンスファネルの現状を把握
- ギャップの特定:理想と現実のギャップを明確にし、優先的に取り組むべき課題を抽出
- 小さく始める:全てを一度に変えるのではなく、一つのプロセスから改善を始める
- KPIの設定:顧客満足度、紹介率、コンバージョン率など、測定可能な指標を設定
- 継続的な改善:顧客からのフィードバックを取り入れながら、継続的に仕組みを改善
ダブルファネルの構築は一朝一夕にできるものではありませんが、顧客中心の考え方を徹底し、長期的な視点で取り組むことで、広告に依存しない持続可能な集客の仕組みを作ることができます。特に士業や医療機関などの専門サービスでは、信頼関係に基づく口コミの力が非常に大きいため、ぜひダブルファネルの考え方を取り入れてみてください。